モンテッソーリ教育における「叱る」とは、一般的に言われる「叱る」こととは異なる概念です。
モンテッソーリ教育では、子どもたちに対して叱るのではなく、導きやサポートを通じて望ましい行動を促すことが重視されます。
以下にモンテッソーリ教育における「叱る」ことの特徴を見ていきたいと思います。
【モンテッソーリ教育の「叱る」とは】
尊重と理解
子ども一人ひとりの個性や発達段階を理解し、尊重します。問題行動があった場合も、その背景や原因を理解しようと努めます。
自然な結果を学ぶ
子どもが行動の自然な結果を経験することで学べるようにします。例えば、物を乱暴に扱って壊してしまった場合、その物が使えなくなることを通じて学ばせます。
ポジティブな指導
ポジティブな言葉や行動で指導します。ネガティブな言葉で叱るのではなく、正しい行動を示して「こうするといいよ」と教えます。
環境の整備
子どもが自律的に行動できるような環境を整えます。明確なルールや秩序があり、子どもたちがその中で自由に探求し学べるようにします。
対話を通じた解決
問題が発生した場合、子どもと対話を通じて解決します。子どもの意見を聞き、自分の行動について考えさせることを大切にします。
内的動機付け
子どもが自分自身の内的動機から行動できるようにサポートします。外的な罰や報酬に頼らず、自分で考え、自分の行動に責任を持つことを学ばせます。
モンテッソーリ教育においては、子どもが自己調整能力や自己管理能力を育むことを目指し、叱るのではなく、共感と尊重を基にした指導が行われます。
【社会的参照】
先程も述べたように、モンテッソーリ教育の中には、「叱る」という概念はなく、「真剣に教えてあげる」という事が叱る事に値しますが、本気で物事の是非を説いている親に対しては、子どもも真剣に向き合うという事が知られています。
これを社会的参照と言います。
「社会的参照」は、いつもと違う声の大きさ、顔の険しさから「これはしてはいけない事なんだ」という真剣さを感じ取ると、ひとたび子どもは真面目に聞いてくれます。
社会的参照についてさらに詳しく
モンテッソーリ教育における社会的参照(social referencing)は、子どもが他者の行動や反応を観察し、それを手がかりとして自分の行動を決定するプロセスを指します。
具体的には、子どもが自分の行動の適切さや周囲の状況を理解するために、大人や他の子どもの反応を見て判断することです。
モンテッソーリ教育における社会的参照の特徴
- モデリングと観察
- 子どもたちは教師や他の子どもの行動を観察し、それを手本にします。教師は、子どもにとって望ましい行動や態度を示すためのロールモデルとなります。
- 独立心の育成
- モンテッソーリ教育では、子どもが自主的に活動することが奨励されますが、社会的参照を通じて他者との関係性や社会的ルールも学びます。これにより、独立心と社会性のバランスが取れます。
- 感情の理解と共感
- 子どもは他者の表情や声のトーンなどから感情を読み取ります。この観察を通じて、他者の感情を理解し、共感する能力が育まれます。
- 適切な行動の学習
- 社会的参照を通じて、子どもはどのような行動が適切であるかを学びます。例えば、静かにしなければならない場面では他の子どもたちの行動を見て、それに倣います。
- 安全と安心の確認
- 特に幼い子どもは、親や教師の表情や態度を見て、その場が安全であるかどうかを確認します。これにより、新しい状況や環境に対する不安を軽減します。
実践例
- グループ活動
- グループでの活動やプロジェクトを通じて、子どもたちは互いの行動を観察し、協力の方法やコミュニケーションのスキルを学びます。
- クラスルームの設定
- モンテッソーリの教室は、子どもたちが自由に動き回り、他の子どもの活動を観察しやすいように設計されています。これにより、自然に社会的参照が促進されます。
- 教師の役割
- 教師は、子どもが自分自身で問題を解決できるように導く役割を果たしますが、その際、必要に応じて手本を示し、子どもたちが適切な行動を学ぶ手助けをします。
モンテッソーリ教育では、社会的参照を通じて子どもたちが社会的スキルや感情の理解を深めることを大切にしています。
これは、子どもが自立しつつも他者と調和して生活する力を身につけるための重要なプロセスです。
【敏感期を考慮した叱り方】
子どもの自立を促し尊重するモンテッソーリ教育においても、叱らなければならない場面というのは必ず存在しています。
しかし子どもの発達段階や「敏感期」(子どもが特定のスキルや知識を自然に習得しやすい時期)を考慮しながら接することが重要です。
以下に、年齢ごとに適した叱り方や対応方法を述べます。
0-3歳:運動と秩序の敏感期
この時期の子どもは、自分の体を使って環境を探索し、秩序やルーティンを好む傾向があります。
特に「秩序の敏感期」と「運動の敏感期」を大人自身が理解する事で、子どもと大人の根本的な性質の差がわかれば、 子どものした行動のその瞬間に子どもが考えていることがわかるようになり、叱る回数は減っていきます。
- 具体的な指示
- 「走らないでね。歩こうね。」など、具体的な行動を促す言葉を使います。
- 環境整備
- 子どもが安全に探索できる環境を整えます。危険を避けるために、物理的な障害を取り除くことが大切です。
- 穏やかな対応
- 感情的に叱るのではなく、穏やかな声で落ち着かせるようにします。感情のコントロールがまだ未熟なため、安心感を与えることが重要です。
3-6歳:感覚教育と社会的関係の敏感期
この時期の子どもは、感覚を通じて学び、社会的スキルやルールを理解し始めます。
- 正しい行動のモデル化
- 望ましい行動を示すことで、子どもがそれを模倣できるようにします。「お友達と一緒に遊ぶ時は、順番を守ろうね」と具体的な例を示します。
- 自然な結果を経験させる
- 行動の結果を経験させることで、学びを促します。例えば、片付けをしないとおもちゃが見つからなくなることを教えます。
- ルールの再確認
- クラスや家庭でのルールを繰り返し確認し、子どもがその重要性を理解できるようにします。
6-12歳:道徳と社会的スキルの敏感期
この時期の子どもは、倫理や道徳についての理解を深め、仲間との関係を重視するようになります。
- 対話を重視
- 問題が発生した場合、子どもと対話を通じて解決します。感情や考えを聞き、共に解決策を見つけることが大切です。「どうしてそうしたのか話してみようか」と問いかけます。
- 自己反省を促す
- 自分の行動について考えさせる機会を与えます。「その行動はお友達をどう感じさせたと思う?」と問いかけ、自分の行動の影響を理解させます。
- ポジティブな強化
- 望ましい行動ができた時には、具体的に褒めて強化します。「今日は皆と協力して片付けができたね」
12-18歳:自我と社会的責任の敏感期
この時期の青年は、自分のアイデンティティを形成し、社会的責任を意識するようになります。
- 自主性の尊重
- 自分で決定し、行動する力を尊重します。「どうすれば皆が協力しやすくなるか考えてみて」と問いかけ、主体的に考える機会を与えます。
- 責任感の強化
- 自分の行動に責任を持つことを学ばせます。失敗した場合も、その経験を通じて成長できるようにサポートします。
- 建設的なフィードバック
- 行動についての具体的なフィードバックを提供します。「そのアイデアは良いけれど、もっと協力的な方法がないか考えてみよう」と建設的な提案をします。
モンテッソーリ教育では、子どもの敏感期を理解し、それに合わせた適切な対応をすることで、子どもたちの健全な成長と発達を促進します。叱ることも成長の一環として、尊重と理解を基にした方法で行われます。
【まとめ】
この記事では、モンテッソーリ教育における子どもの敏感期を考慮した効果的な叱り方を年齢ごとに詳しく解説しました。
0-3歳の運動と秩序の敏感期には具体的な指示と環境整備、3-6歳の感覚教育期には正しい行動のモデル化と自然な結果の経験、6-12歳の道徳期には対話と自己反省、12-18歳の自我形成期には自主性の尊重と責任感の強化が重要です。
各年齢に適したアプローチを取ることで、子どもたちの健全な成長と発達をサポートできます。
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